研究概要 |
非接触型原子間力顕微鏡(NC-AFM)は探針と試料表面の間にはたらく微弱な引力を検出して探針の高さをフィードバック制御する走査プローブ顕微鏡である。シリコン表面における原子分解能観察の実現を契機として急速な発展を遂げつつあり、絶縁体や生体物質表面に適用可能なプローブ顕微鏡法として注目されている。特に、分散力・静電気力・水素結合力・化学結合力などの中から特定の力成分を抽出することができれば、探針-試料間にはたらく力に基づいた試料最表面の化学分析が可能になると期待されている。しかし、分子の物理的サイズや化学的性質が顕微鏡画像におよぼす影響を定量的に評価した研究は、本研究以前にはまったくなかった。 本研究では、NC-AFMによる単一分子化学分板の第一歩として、置換基を系統的に変化させた一連のカルボン酸イオン(HCOO, CH_3COO, (CH_3)_3CCOO, CF_3COO, CF_2HCOO, HC 三CCOO)を混合吸着させた二酸化チタン結晶(110)表面を観察した。別種の分子が混ざり合って吸着した表面において、NC-AFM画像の高低から分子種を識別することができた。さらに、分子の物理的サイズと永久双極子がNC-AFM像にどのように反映されるかを定量的に評価することに成功した。 このようにして、試料に電導性を要求しないNC-AFMが吸着分子の化学的性質に敏感であり、ナノデバイス・インテリジェントセンサー・生体物質・触媒などの表面で進行する化学反応の観察を可能にする原子分解能顕微鏡であることを実証できた。この成果は、NC-AFMに関する国際会議招待講演、NC-AFMに関する単行本への寄稿などを通して発信され、関係者の注目を集めている。
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