研究概要 |
微小な突起を有するプローブを用いた走査型近接場光学顕微鏡(Scanning Near-field Optical Mlcroscopc ; SNOM)では,S/N比に優れ,資料材質に依存せず,nmオーダーの試料表面形状計測が可能であるといった利点をもつ.このSNOMの空間分解能は,試料走査に用いるプローブの形状に大きく依存している.このプローブの性能は,「如何に試料表面の極極小形状と走査に用いる光との相互作用を効率よくかつ局所的に発生させ,S/N比の良い散乱光信号に変換できるか」にかかっている. そこで,我々はSNOMプローブ周りの電磁場解析を通して最適なプローブ形状を設計する目的で,三次元境界要素法による電磁場伝搬プログラムを開発した.このプログラムにより,三次元空間での波長オーダーの大きさを持つ微小球プローブ周りの電磁場伝搬状態をシミュレーションした結果を以下に報告する.この結果から,プローブ周りの空間的な電磁場の広がりが確認でき,またプローブ-試料近接時のプローブからの散乱光強度の評価が可能となった.また,散乱光の空間分布の変化を調べることも可能である.このプログラムを用いて高感度,高空間分解能を有する,SNOMの理想的なプローブ形状を提案し,実験的に検証してゆく予定である. SNOMの感度や空間分解能は,プローブ形状が支配している.そこで,以前良好な結果が得られた波長オダーの大きさを持つ微粒子プローブについて,解析を試みた.実験条件と合わせるために,入射光の波長λを633nm(HeNeレーザー),プローブ形状を微小球(直径;0.6λ〜約380nm)と設定して,プローブ周りの電磁場伝播解析を行った. この計算では,直径0.6λのポリスチレン球をプローブとした.プローブが走査する試料として金薄膜に設定した.S偏光のレーザー光が入射角70度で入射し,全反射しながらプローブを照明する. このモデルを用いた時の電場伝播解析結果を見ると,石英基板表面に発生したエバネッセント波が微小球と結合し,微小球内を伝搬した光が試料表面と相互作用して散乱されている様子が観察できた.また,試料材質が導電体である金のため,試料内には電場は浸透せず,また空気との屈折率差が大きいことからほとんど反射,散乱されているのがわかる. またこの計算結果から,3次元的な電磁場伝搬の時間変化を動画表示してみると,石英基板内の波は,上方に球面波状に伝搬する様子が観察できた. SNOMは,プローブと試料間との距離を変化させると試料からの散乱光強度が顕著に増減することを利用して,走査型顕微鏡としての高い空間分解能を得ている.そこで我々の実験における対物レンズのレンズ径,開口数,焦点距離を調べ,集光レンズに取り込まれるであろう散乱光の強度(Pointing vectorのz方向成分の絶対値の和)を計算した.散乱光強度とブローブ-試料間距離(DGAP)との関係が計算された.この計算結果を,対応する実験結果と比べたところ,プローブが試料から十分に離れているときの散乱光強度の変化は,実験,計算ともに試料-プローブ間の干渉の効果を示している.また,プローブが近接場領域に侵入した際の散乱光の急激な増加も,計算結果がよく説明できていることがわかる. 3次元境界要素法プログラムにより,SNOMプローブとしての微小球周りの電磁場解析が可能となった.このプログラムは実験結果をよくシミュレートし,プローブ形状に応じた,近接場に起因する散乱電磁場を精度良く解析できるので,今後,プローブ形状・材質を変化させ,高感度,高分解能を発揮できるSNOMプローブのパラメータ設計を行ない,フェムト秒レーザーを用いた極微細加工により試作し,実験的に検証してゆく.
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