研究概要 |
本研究では,塑性論の中でもとくに結晶転位論と結晶塑性理論の間の本質的な橋渡しを達成するための方法論として場の理論的アプローチ法を提案した.転位自己組織化の過程を通して,μmオーダーの周期/準周期性を有する下部構造が生じる,すなわち"スケール"が自発的に導入される.したがって,塑性論に関する限りこの領域を無視してマルチスケールモデリングはあり得ない.本研究では,転位自己組織化の中でも最も重要かつ取り扱いが困難なセル組織形成過程を対象とした.議論の出発点として,転位のゲージ場理論に基づいて転位を含む弾性体に対する系の"転位論的第一原理"Hamiltonianを書き下し,転位場と背景場である弾性変位場との相互作用を適切に定式化に取り込んだ.セル組織形成の素過程として動的回復における転位対の消滅を考え,そのエネルギ期待値をマクロなオーダーパラメータ(OP)とみなし,OPに関する有効Hamiltonianを導出した.同式はOPに関するGintzburg-Landau(GL)型の自由エネルギ汎関数の形をしており,これから時間依存GL方程式が求められる.さらに応力の平衡条件を課して弾性変位場を消去した最終形を数値的に解き,セル組織形成に対する2次元および3次元シミュレーションを実施した.その結果,上記の有効Hamiltonianから求められる時間依存GL方程式を解いても,そのままではセル状の組織形成は再現できないことが明らかとなった.そこで,セル組織形成における重要な因子として,セル内部に生じる長範囲応力場の存在を考慮し,セル状組織の形成条件について検討した.本モデルでは,見かけ上の弾性定数の差(消滅場に依存)を導入することで,セル壁-内部の境界部において存在する多数の余剰転位群が同界面において生み出すひずみの"ミスフィット'的効果を表現した.これは転位高密度部(セル壁)が形成されることにより生じる弾性的な不均質性に伴うエネルギの上昇を表し,セル壁-内部の界面エネルギとのバランスによりセルのサイズおよび形状が決定される.以上のことより,セル組織形成においては,(1)素過程としては動的回復過程が最も重要であり,さらに(2)セル壁近傍における"ミスフィット的"効果がセル形状に対し決定的に重要な役割を果たし,その大小によりセルサイズが決まることが明らかとなった. 以上の研究成果に加え,研究代表者は2000年には計算工学に関する国際会議(ICES'2K)において関連課題に対するシンポジウムを開催した.さらに,今春に長期滞在していた米国マサチューセッツ工科大学(MIT)において,転位パターン形成を中心とした塑性における重要課題に関する4回のシンポジウムを企画、開催し,内外から有数の研究者を招き討論を行った.ここで得られた最新の知見の一部は,Scripta Materialia誌における特集記事として掲載される予定である.
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