研究概要 |
昨年度までに,トランジスター放電回路を用いてアイソパルス方式でパルス幅80nsを実現した.その結果,放電頻度がこれまでのコンデンサー放電回路に比べて4倍に増加し加工速度が2.7倍に向上させることができた.しかし,パルス幅80nsは微細加工では中仕上げ加工条件である.そこで本年度は,更に短いパルス幅を用いる仕上げ加工をトランジスター放電回路で行うことを目的とする.また,トランジスター電源は放電頻度をRC回路に比べて高くできるが,この電源の能力を生かすには工具電極送り機構を従来の定速送り方式からサーボ制御方式に変える必要がある.そこで,本年度は極間制御のサーボ化の可能性について探った.まず,より短いパルス幅を達成するために,昨年までに製作したトランジスター放電回路に強制遮断回路を組み込んだ.本回路は極間で絶縁破壊が生じた直後に極間の電圧を強制的に遮断するものである.これにより,パルス幅はトランジスター素子が持つ立下り時間程度にまで短くすることが可能となる.実験の結果,パルス幅は15nsにまで短縮された.このパルス幅は,従来のコンデンサー放電回路における仕上げ加工条件に匹敵するものである.そして,実際に加工を行いコンデンサー放電回路で加工した工作物との比較を行なった.その結果,表面粗さ等の加工面性状には違いが見られなかった. 次に,微細加工における極間制御のサーボ化の可能性について探った.なお,用いた電源はコンデンサー放電回路である.微細加工では極間隙が極めて狭いため,従来からサーボ方式による極間の制御が難しいと考えられ,工具電極を一定速度で送る定速送り方式が使用されてきた.また,サーボ制御を行うためには極間電圧を検出する回路が必要となるが,極間電圧検出回路を放電回路に組み込むことで検出回路の持つ浮遊容量によりピーク電流が大きくなり放電加工の加工特性に悪影響を及ぼす.そこで,放電回路に大きな抵抗を介して極間電圧検出回路を組み込み,検出回路の浮遊容量が放電加工に及ぼす影響が少なくなるようにした.放電電流波形を実測したとごろ,検出回路取付け前後で波形の変化は観察されなかった. 一方,微細加工の狭い極間に対応するためにはサーボ制御の応答性を高めることと,送りの分解能を高くする必要がある.そこで,サーボ制御は高速制御に有利なアナログ方式を採用し,分解能については主軸の送り分解能の限界である0.01μmにまで細かくすることで対応した.これらの工夫により,コンデンサー放電回路を用いても,仕上げ加工条件において,放電頻度が定速送り方式に比べて2.9倍に増加し加工速度は3.2倍に向上した.荒加工条件ではそれぞれ2.9倍,2.6倍という結果が得られた.以上,本研究はトランジスター電源による微細放電加工が可能であることを明らかにするとともに,微細放電加工領域においても極間のサーボ制御が可能であることを示した.よって,これらの成果を合わせた微細放電加工機を製作することで,微細放電加工の問題点であった遅い加工速度を著しく向上させることが可能である.
|