研究概要 |
本研究では,カーボンナノチューブをフィラーとして樹脂材料に混合した複合材料を射出成形により成形し,その成形性と成形品の機械的・電気的特性について検討することを目的とする.まず,超多層CNTである気相成長炭素繊維(VGCF)を充填したポリスチレンの射出成形実験を行い,その成形性について検討した.そして,この成形品の機械的・電気的特性を従来から導電性フィラーとして使われているピッチ系炭素繊維およびカーボンブラックを充填した場合と比較し,繊維の配向状態がこれらの特性に及ぼす影響について考察した. VGCF含有樹脂の成形性は,VGCFの添加量が増加すると樹脂の溶融粘度が増加するために低下するが,12vol.%以下の添加量であれば一般の射出成形の場合には問題なく成形が可能であることがわかった.また,二軸混練機でフィラーと樹脂とを混練してから射出成形を行うことで,フィラーの凝集を抑制し,成形品中にほぼ均一にフィラーを分散させるとともに,フィラーを流動方向に配向させることができることを明らかにした.引張試験を行った結果,引張弾性率はVGCFの充填量の増加とともに改善されたが,実験を行った12vol.%以下の充填量では引張強さはほとんど変化しなかった.一方,体積抵抗率測定の結果,カーボンブラックを充填した場合には体積抵抗率がほぼ直線的に低下するのに対し,VGCFを充填した場合にはある濃度しきい値(3vol.%)を越えると急激に体積抵抗率が低下した.そして,VGCFを充填することにより11.6vol.%で10^2Ω・cmと低い抵抗率の成形品が得られたが,MWCNTを充填するとさらに少ない添加量で電気的特性に優れた成形品(3vol.%で10^7Ω・cm)が得られることを明らかにした.またVGCFを0.2vol.%充填することにより静電気散逸性に優れた成形品が得られることを示した.成形品の断面観察により,これらの電気的特性は成形時に形成される繊維の配向状態に依存しており,成形時に材料に加わるせん断ひずみを小さくすることで,体積抵抗率が低く静電気特性に優れた成形品が得られることを明らかにした.
|