研究概要 |
商用周波数の電磁界が人体内に誘導する電流密度の分布に関して境界要素法による数値計算を実行し、日常環境下での人体内誘導電流分布を定量的に解析した。「B. Techaumnat,曲面形状境界要素法による低周波磁界の人体誘導電流計算,電気学会論文誌A121巻9号,848-853(2001)」においては、心臓・脳・肺・肝臓・腸を考慮した人体モデルに商用周波磁界が印加された状況を考え(高電圧送電線近傍での暴露状況に対応)、高次曲面要素を用いた境界要素法によりモデル内誘導電流計算を行った。モデルの姿勢や臓器の導電率を変化させてパラメータ依存性を調査し、臓器内の最大電流密度が臓器の導電率におおむね単純に比例すると考えて良いことを明らかにした。「西尾,磁気ダイポールによる頭部の商用周波誘導電流,電気学会基礎・材料・共通部門大会,461(2001)」においては、頭蓋骨・背骨・脳を考慮した頭部人体モデルに商用周波非一様磁界が印加された状況を考え(家電製品(ドライア)使用時の暴露状況に対応)、境界要素法による人体モデル内誘導電流計算を行った。ドライアを模擬した磁気ダイポールの位置と方向を変化させてパラメータ依存性を調査し、頭部表皮から数cmの離隔距離が確保されている限りは、脳内部の最大誘導電流密度はICNIRP指針の10mAm^<-2>に対して2〜3桁小さな値になることを示した。一方、境界要素法の性能向上を目指して高速多重極法(FMM)に基づく表面電荷法・境界要素法のコードを開発し、O(N^2)のメモリとO(N^3)の演算が必要な通常解法に対して、O(N)のメモリと演算量での計算を可能とした。加えて、FMM専用の密行列反復解法の前処理手法を新たに提案し、収束に要する主ループの反復回数を数回にまで激減させることに成功した。こうした計算技術の向上により、PCレベルでの取り扱い可能未知数を、従来の数千〜1万程度に対し数十万〜100万程度にまで増加させることが可能となった。
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