研究概要 |
現在,センサ等の機能デバイス材料として広く用いられている強誘電体セラミクスを薄膜化することによって、半導体集積回路と一体化させ、強誘電体薄膜メモリ(FeRAM)を実現することが強く期待されている。現行のメモリ素子に比較してFeRAMは高速動作,大規模,低消費電力等の優れた特徴があるためである。そのためこれまで多数の研究がなされているが、記録操作の繰り返しや経時変化によって情報が劣化する疲労現象や減極効果の問題が残っている。この現象の物理機構の解明と劣化の解消が当研究分野の最重要課題となっている。強誘電体薄膜に存在するトラップ準位・電荷が劣化に関与しているというのが最近の有力な説である。 そのため、薄膜のトラップの詳細な知見がぜひ必要とされるが、トラップに関する正確な測定は困難であるのが現状である。測定法として有望なのは有機物や半導体で利用されている熱刺激電流(TSC)測定法であり、これは熱で解放されたトラップ電荷を電流として観測する手法であるが、強誘電体薄膜ではトラップ電荷電流の観測を妨げる寄生電流(焦電電流やリーク電流,吸収電流)が無視できず、測定は困難になる。そこで,TSC法を大幅に改良・最適化した新規な測定手法を開発し、強誘電体薄膜のトラップ電荷の精密な測定を実現する必要がある。 初年度はSi基板上に作製したPZT強誘電体薄膜において熱刺激電流の測定を行った。通常の測定法では前述のようにかなり大きなリーク電流が流れて熱刺激電流による電流ピークが埋もれてしまい正確な測定は困難であった。しかし、本研究で温度シーケンスを工夫してリーク電流を除去することで明瞭な熱刺激電流測定が可能になることがわかった。この改良測定法を用いて、分極反転疲労、疲労時の温度、熱刺激電流の関係を詳細に調べた結果、疲労させることで0.8eVと0.86eVの2種類のトラップが膜内に増加することがわかり、さらに、前者のトラップは10^8反転以前の軽疲労時に、後者のトラヅプは10^8回反転以降の膜破壊の進展に関係していることを分離することができた。 次年度は、SBT強誘電体膜についてもTSC測定も含めて温度・電気特性について詳細に調べ、その結果、劣化(インプリント)現象が起こる試料では0,57eVのTSCピークが観測され、酸素欠損を生じたSBT薄膜でも同じエネルギーのピークが観測されたことから、酸素欠損が劣化の原因であることがわかった。 一連の研究成果から、強誘電体薄膜の劣化機構を調べる際、本研究で開発した精密なTSC測定は非常に有効な手法であることが明らかになった。
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