研究概要 |
確率的安全性評価(Probabilistic Risk Assessment.以下PRA)はシステムの安全性・信頼性解析手法として研究され,実際に原子力プラントなどに対して実績があるが,その強力な解析能力を生かすだけのシステム設計手法が現状では未整備,体系化されていない.一方,制御理論の一分野に,一部のデバイスが故障しても制御系全体が安定に保たれるようにコントローラを設計するという高安全性制御の分野があるが,未成熟であり,真に成熟した理論へ脱皮する上での新しい方向性が模索されている.製造物責任,国際安全規格の策定,さらには昨今の原子力関連プラントにおける度重なる事故などにより,システムの安全性に対する杜会的要求がますます高まる中,分野の垣根を越えたグローバルな視点からの安全対策として,PRAと高安全性制御の境界領域に新しい実用的な理論・技術を確立することが本研究の目的である. 前年度までにDevice Failure Context(以下DFC)という,PRAの中心的概念であるコンテキスト(デバイスの正常/故障状況と物理量の時間的推移を統合した概念)からデバイスの情報だけを抽出した概念を導入することで,PRAと高安全性制御を直接的に結び付け,各DFCの重み付けを導入した.これは,PRAの立場からは各DFCの出現確率,リスクなどの実際的意味を,制御理論の立場からは故障時の制御性能を積極的に考慮することに相当する.これら両者の整合性に配慮して高安全性制御系設計法を構築した. 本年度はその有効性をシミュレーションにより詳細に検証する一方で,PRAの代表的手法であるDynamic Flowgraph Methodologyと本研究で得られた理論との間のイタレーションソフトウエアを,物理的な意味やその観点での整合性に配慮しつつ,前年度本科学研究費補助金により購入したPCワークステーションの高い計算能力を活かして作成した.これにより,計算機上でPRAの高い解析能力と高安全性制御のシステム設計手法が有機的に結びつき,より実用性が高まった. なお,本年度に得られた結果は国際会議2002 American Control Conference(5月,アンカレジ(USA))ならびに15th IFAC World Congress on Automatic Control(7月,バルセロナ(スペイン))において発表予定である.
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