平成12年度の調査結果から、塩分溶脱メカニズムの基礎知見として次のことを得た。地下帯水層では塩水化が進んでいるが、その水質組成は海水のそれに類似しないことから、陸域における塩分供給源の存在を考慮しないと説明できない。また、地下帯水層の水質は、酸素を含み酸化状態にあるものが見受けられた。一方、海水環境で堆積した海成粘土層の塩分濃度は著い低下の傾向を示した。また、その酸化還元状態も弱い還元状態にあった。以上のことから、地下では自然状態のもとでは考えられない速さで地下水流動が進んでいることが示唆された。 上述のことを詳しく確かめるために、平成13年度はまず、放射性同位元素トリチウムの分析結果から年代に関する検討を行い、水素・酸素の各同位元素の分析結果から起源に関する検討を行った。次に、移流拡散解析プログラムを用いて塩分溶脱メカニズムに関する解析的検討を行った。以上の結果から、塩分溶脱現象は、自然状態のもとでは考えられない速さで進んでいることが確かとなり、佐賀低平地における季節的な地下水揚水による粘土層中地下水(間隙水)と帯水層地下水の混合が主な原因であるとの結論を得た。このことから、佐賀低平地における海成粘土の高鋭敏性・高圧縮性もまた、人為的な活動によって生起された性質であるとみなせる。 今回の研究結果から、海成粘土の高鋭敏性・高層縮性の生成メカニズムについて、初めて年代・起源の視点を取り入れることが可能となった。このような視点に基づいて海成粘土の土質特性の解明に取り組んだ事例は皆無であり、今後の理解に新たな視点をもたらすものと考える。
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