研究概要 |
Xバンドレーダによる沿岸海洋観測は広域の対象海域内の海象現象をほぼ瞬時に計測できるなど,従来の海洋観測機器にはない大きな特徴を有している.しかしながら海面における電磁波散乱機構や,散乱電磁波がどのような形でさまざまな海象現象の情報を有しているかは不明である.そこで本研究では昨年度,室内実験による海面での電磁波散乱特性を解明し,Xバンドレーダの現地海洋観測への可能性も検討した.本年度は,昨年の成果を踏まえ,このXパンドレーダが定点海洋観測機器として荒天時にも有用な観測データを取得できるかを検討した. 本研究ではXバンドレーダを京都大学防災研究所大潟波浪観測所に設置し,冬期日本海の観測を1時間毎に約3ヵ月間行った.その結果,このレーダ設置点を中心とした半径5kmの領域で海洋表層流流速分布と波浪方向スペクトルが計測できた.さらに,冬期季節風や発達した低気圧通過に伴う荒天時,高波浪時においても観測可能であった.次にXバンドレーダによって得られた海洋観測データを解析し,大潟海岸における冬期の海洋表層流・波浪特性について検討した.その結果,海洋表層流や海洋波浪は通常季節風の風向と同じ方向で海岸に入射しているが,低気圧通過などに伴い風向が変化した場合には風向の変化にやや遅れて流向や波向も風向の方向に変化する傾向が見られた.また表層流は通常汀線に近付くにつれてその向きを沿岸北東方向に変化させている事も見出された. 以上より,本年度の研究ではXバンドレーダによる海洋観測を行い,このレーダが荒天時にも安定して波浪観測できることを示し,さらに,このレーダでは,従来の観測機器では計測困難であった海洋表層流や波浪方向スペクトルの空間分布を継続して観測可能であることも明らかにした.そしてこれらの検討からXバンドレーダは新たな海洋観測機器として活用可能であると結論づけることができた.
|