研究概要 |
鉄骨建築物において溶接部は柱梁接合部で最も応力状態の厳しい部分に存在する。さらに溶接部は入熱によって材質が変化しており、特にHAZ部で靭性が大きく低下している。 本年度の研究では、溶接にて想定される熱履歴を受けたHAZ部の靭性低下を新たに開発された鋼を含めた各種鋼材において把握し、必要靭性値を保持するための溶接入熱の制限値を各鋼種別に明らかにする事を目的とした。 実験パラメータは、鋼材種(極軟鋼,SN400,SN490,HT80の4因子,12ロット)と熱履歴(CO_2換算入熱10,16,37,60kJ/cmの4因子)とし、鋼材に再現熱サイクル装置により熱サイクルを与えた後にシャルピー衝撃試験を行うことにより靭性の低下を計測した。 その結果、以下の事が明らかとなった。ただし、必要靭性値はこれまでの研究で得られた85Jとしている。 1.HT80はCO_2換算入熱37kJ/cmまでは、シャルピー吸収エネルギーが約150Jと必要値を上回ったが、60kJ/cm以上では50J以下に急減した。よって、本実験で用いたHT80では、CO_2換算入熱で37kJ/cmと60kJ/cmの間に限界入熱量があると考えられる。 2.SN400およびSN490では鋼材によってばらついているものの、溶接入熱無しで200J以上のシャルピー吸収エネルギーを有するSN400ではCO_2換算入熱で37JkJ/cm付近に限界入熱量があると考えられる。ただし、溶接入熱無しでも85Jに満たないものが流通しており、さらに溶接入熱により40J以下に低下する。 3.極軟鋼は,一軸引張試験では50%以上の伸びを有し、熱サイクル無しでは150J以上の大きなシャルピー吸収エネルギーを持つものでも、溶接入熱により10J以下に極端に靭性が低下するものもある。 この結果を踏まえて、13年度は繰返し塑性歪の影響に注力した研究を行う予定である。
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