研究概要 |
本研究は,イオンビームを利用した鉄鋼表面改質が,大気腐食環境で生成する鉄鋼さび層の性状におよぼす影響を学術的に追求するとともに,厳しい腐食環境においても塗装やメッキなどの防食処理を施すことなく,耐食性を発揮する新しい高耐食性・長寿命の鉄鋼材料を創出するための基礎的知見を得ることを目的とし,研究の結果以下のことが明らかとなった. (1)Cr, Cu, P, Niなどの合金元素を利用し表面改質した場合,それらがさび層の長期相変化を促進し,防食性の高い超微細ゲーサイト相(α-FeOOH構造)の生成を促す. (2)0.04mdd程度の適度な飛来塩分はゲーサイト相への相変化を促進し,飛来塩分量の増加に伴う腐食量の増加が低く抑えられるのに対し,飛来塩分量が多くなるとβ-FeOOHの生成が促進されさび層の防食性が著しく低下する. (3)防食性の高い耐候性鋼のさび層は0.04mdd程度の飛来塩分量では多量の超微細ゲーサイトを含有するが,飛来塩分量が多くなるとβ-FeOOHの生成に伴い超微細ゲーサイト量が減少する. (4)Niを含む場合に形成されたさび層は,さび粒子の凝集構造に加え,C1^-イオンを不活性にする効果を有ることにより塩分飛来環境でも高い防食性を示す. (5)Crは特に防食性の高いゲーサイト相を生成する効果があり,その防食機能は原子レベルでゲーサイト結晶に吸着して存在するCrのオキソ酸イオンによることが放射光を用いたX線吸収微細構造解析により明らかになった.また,同様の放射光解析により,飛来塩分量が多い場合はこのようなCrのオキソ酸が形成されず,さび層の防食性が著しく低下することが判明した. これらのことから,CrやNiなどの有効元素を鉄鋼表面に供給しさび層構造を制御することにより,新しい高耐食性・長寿命の鉄鋼材料を創出することが可能になることが明らかとなった.
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