研究概要 |
高齢化社会を迎えたわが国において、医療用材料の研究・開発が必要不可欠となっている。なかでも生体内に長期間安全に埋入できる生体用インプラント材の需要は高く、現在利用されている純チタン,Ti-6Al-4V-ELI合金以上の生態適合性に優れたチタン合金の開発が進められている。ただし、材料開発だけではその要望を満たすことが困難であるため、表面改質が求められている. そこで本研究では,Vを含有しない生体用チタン合金,Ti-6Al-2Nb-1Ta, Ti-15Zr-,Ti-15Mo-に窒素イオンを注入することによって擬似体液中での腐食摩耗特性の改善を図り、またその窒化層のミクロ組織との関係を調べた. 窒素イオン注入はコッククロフト・ウォルトン型の注入装置を用い,室温で行った.加速電圧は150kV,ドーズを1x10^<16>〜1x10^<17> N_2^+/cm^2と変化させた.注入前後の試料表面を薄膜X線回折によって相同定した.これらの試料を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した. 薄膜X線回折によってドーズの少ない場合はT_<12>Nが同定され,またドーズが多くなるとともに徐々にTiNが増加することが明らかになった.また窒素のマトリックス中への固溶によって,α相およびβ相どちらの回折ピークも低角度側にシフトしていた.そのシフト量より窒素注入によるα相およびβ相の格子定数の変化を明らかにした.これらの窒化物をTEM観察した結果,数10nmの大きさの窒化物がマトリックス中に均一に分散生成していることが明らかとなった.またTiNの高分解能TEM像の撮影に成功した.α相およびβ相中での窒化物の分散状態に大きな違いは認められなかった.これらの窒素固溶およびTiNの生成によって生体用新チタン合金の体摩耗性,耐食性および耐腐食摩耗特性のいずれも向上することが明らかになった.
|