研究概要 |
1.透過相互作用エネルギーの評価 本研究では,細孔壁ポテンシャル場によりボルツマン分布則に従ってバルク気相とは密度が異なるガス状分子の細孔内ガス透過モデルを提案した.昨年度の研究により,その妥当性が示された微細孔内ガス透過モデルを用いて,多孔性シリカ膜における数種類のガスの透過速度の温度依存性より透過に有効な細孔表面と透過ガス分子との間に働く引力相互作用を算出すると,二酸化炭素分子の場合で数千から十数J/mol,窒素,アルゴン,酸素分子の場合で数百から数千J/molという値が得られた.膜材料として用いたシリカコロイドから作成した粉体試料において,二酸化炭素および窒素の吸着量を測定すると,同一平衡圧力下において,二酸化炭素の吸着量の方が窒素の吸着量に較べて数倍程度大きく,多孔性シリカ膜におけるガス透過実験から得られた相互作用との定性的傾向の一致が見られた.また,分子動力学法を用いた微細孔内のガス透過シミュレーションにおいても,透過速度から得られた細孔内ポテンシャル場の深さと,実際に設定したポテンシャルパラメータから算出されるポテンシャル場の大きさが定量的に一致し,透過モデルによる相互作用エネルギー評価法の妥当性が示された. 2.平均有効膜細孔径評価法の妥当性の検討 分子種と細孔径に依存する相互作用エネルギーの大きさから細孔径を直接的に評価することは困難であった.しかし,膜細孔内ポテンシャル場を考慮したガス透過モデル式は,細孔構造に由来するパラメータC_pを含み,その値と透過ガス分子径との間に相関関係があることが見いだされた.即ち,ガス透過速度の温度依存性に透過モデル式をフィッティングすることにより得られたC_pの値と透過分子径の関係より,透過に有効な平均細孔径の値を具体的に求めることができた.その結果を,既存の細孔径評価法である,分子プローブ法やナノパームポロメトリによる評価値と比較すると,5〜15Åの平均細孔径を有する複数の膜において良好な一致が見られた.これより,ガス分離に有効と考えられるミクロ孔を有する多孔性シリカ膜において,ガス透過に有効な平均細孔径を,ガス透過実験によりin-situでかつ簡便に評価可能であることが示された.
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