研究概要 |
この研究の基盤は,水溶液中の疎水性物質の希薄溶解度にあり,その熱力学的特性について理論的,実験的にも検討してきた.その希薄溶解度から発展できる新しい分離操作や乳化・結晶化現象を提案し,実証してきた.今年度の主な成果は,当初の目標であった疎水性物質(ラウリン酸)のナノサイズ結晶粒子の生成操作とそれらのAFMによる観察ができたことにある.以下に,その内容をまとめた. 疎水性物質のラウリン酸は水溶液に対して極微量の溶解度をもつ.ただし,ラウリン酸の融点は40℃であり,それ以上の温度では液体,それ以下の温度では結晶となる.水溶液中に溶解しているラウリン酸は極微量であるため,一般的な観察ではラウリン酸の液クラスタ,結晶核を観察できないが,熱力学的な解析により水溶液中でラウリン酸の結晶核の生成が裏付けられる. このような概念をもとにラウリン酸のナノサイズ結晶核の観察を試みた.まず,物理化学的に異なる性質を示すラウリン酸の水溶液中の液液相互溶解度と結晶溶解度を算出し,実験ではそれら2つの溶解度の水溶液を実現する.具体的には,液液飽和にある比較的高温の水溶液,それを冷却してできる結晶飽和にある低温の水溶液である.この2つの溶解度差よりラウリン酸はナノサイズ結晶粒子として水溶液中に出現,分散している.それらを採取し,AFMにより観察した結果,40-100nmサイズのラウリン酸結晶粒子を観察できた.水溶液中のエタノール溶媒の濃度,冷却温度の操作因子とナノサイズ結晶粒子の粒径の関係を考察したところ,冷却温度の増加,エタノール濃度の増加とともに粒径が大きくなることが分かった.さらに,液液相互溶解度と結晶溶解度からできる熱力学的溶解度の温度勾配で粒径を整理すれば,1つの関数に収束することが分かった.これは,Ostwald-Freundlichの関係式で表されることが示唆された.これにより,水溶液中で疎水性物質のナノサイズ結晶粒子の粒径制御の操作方法が確立できたことになる.これは大変大きな進歩である.(公表準備中)
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