研究概要 |
エノラート前駆体であるカルボニル基にあらかじめデザイン型ルイス酸アルミニウム トリス(2,6-ジフェニルフェノキシド)(ATPH)による超分子修飾を施してカルボニル分子の性質を認識させ(超分子認識)、その後生成する新しい構造と機能をもつエノラート・イオンを用いて、効率的な選択的有機合成を実現した。具体的には、本年度は以下の成果をあげた。 (1)ATPH-α,β-不飽和シクロペンタノン錯体、BCl_3-DHF錯体およびリチウム反応剤を組み合わせることで、新しい3成分連結反応の開発に成功した。特に、リチウムアセチリドを用いたときに生ずる超分子エノラートを用いて従来法では得られないシス選択性が得られた。このことを利用して、香料の成分であるエピジャスモン酸メチルの効率的な合成に成功した。 (2)ATPHのα,β-不飽和カルボニル化合物の分子認識能をより詳細に調べた。単結晶X線構造解析と、^1H NMR実験、NOE実験を組み合わせて、ATPH-カルボニル錯体の構造と立体配座の傾向を明らかにした。また、この錯体の脱プロトン化によって生じるジエノラートの構造と立体配座についても同様に調べた。この結果、ATPHのもつ立体的・電子的特性がカルボニル化合物やジエノラートに及ぼす影響が明らかとなった。 (8)ATPHのキラル分子認識能についても調べた。具体的には、キラルなα,β-不飽和エステルをATPHによって錯形成させ、その錯体の構造的特性を明らかにした。ATPHは動的なラセミ体構造をもつが、キラルエステルに配位することで、片方のキラリティに偏ることが分かった。このようにして誘導されたATPHの立体配座キラリティを利用して、不斉マイケル付加に応用したところ、Cu反応剤とは全く逆のジアステレオ選択性でマイケル付加体が得られることを見いだした。
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