研究概要 |
研究代表者らは,これまでに橋頭位にリン原子およびケイ素原子を有するホスファシラトリプチセンの合成および構造についての研究をおこなってきた。今回,ケイ素上にメチル基を導入したホスファシラトリプチセン1の遷移金属触媒反応へのホスフィン配位子としての活用を検討した。 トリス(o-ブロモフェニル)ホスフィンとtert-ブチルリチウムとの反応によりトリリチオ体を発生させた後,四塩化ケイ素と反応させることでケイ素上に塩素を有するホスファシラトリプチセンを合成した。これとメチルリチウムとの反応により目的化合物1を合成した。この1のリン原子の配位能力を調べるため,1を対応するセレニド2へと誘導し,2のリン31NMRにおけるリンとセレンとの結合定数を測定した。その結果,1のリン原子上の非共有電子対のs性はトリフェニルホスフィンよりも大きく,最もs性の大きい部類であるトリ(2-フリル)ホスフィンと同程度であることがわかった。従って1はσ供与性の低いホスフィンであることが明らかとなった。このs性の増大は,リン原子まわりの炭素原子との結合角の和がトリフェニルホスフィンと比較して減少したことによるものと考えられる。 このことから1のホスフィン配位子としての有用性を期待し,小杉-右田-Stilleカップリング反応を試みた。トリフェニルホスフィンを用いた場合と比較して1を用いた場合に転化率・収率ともに向上し,トリ(2-フリル)ホスフィンと同等の効果が見られた。
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