研究概要 |
本研究では生体内の特異的な結合として知られている抗原抗体結合をゲル内の可逆的架橋点として導入することにより,従来にない生体分子認識能を持った新規な抗原応答性ゲルの創製を試み,そのゲル構造と抗原応答性機能との関係について検討した。さらに,抗原応答性ゲルの抗原濃度に応答した溶質透過制御機能についても調べ,そのインテリジェント機能を議論した。 1.ゲル構造と抗原応答性の関係の解明 相互侵入網目構造などを導入し,ゲル構造を精密に設計制御することによってゲルの抗原応答性を向上させることができた。また,相互侵入網目構造を導入したゲルは,外部抗原濃度の変化に応答して可逆的に膨潤収縮した。さらに,抗原抗体ゲルを合成する条件を種々変化させることによって,架橋構造が抗原応答性に及ぼす影響を明らかにすることができた。 2.抗原応答性溶質透過制御 ダイヤフラム型膜透過装置を用いて,抗原応答性ゲル膜による溶質の透過実験を行った。抗原応答性ゲル膜は外部抗原濃度の変化に応答してヘモグロビンの透過を明確にON-OFF制御できた。また,その抗原応答性溶質透過制御機能は外部抗原濃度や溶質の分子サイズに強く依存した。 3.溶質透過制御の機構 外部抗原濃度変化に伴うゲル膜の構造変化を位相差顕微鏡を用いて観察し,抗原応答性ゲル膜による溶質透過性の制御機構について検討した。その結果,外部溶液中に抗原が存在する場合に,ゲルの膨潤度が増加してネットワーク間を溶質が透過し,抗原濃度が低下すると再び収縮したネットワークが溶質の拡散を制御するため,抗原応答性透過制御が可能であることがわかった。 以上の結果より,本研究で合成した抗原応答性ゲルはDDSやセンサーなどに利用できる新規なインテリジェントデバイスとしての応用が期待できることが明らかとなった。
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