立体規則性の異なる3種類のシンジオタクチックポリプロピレン(s-PP)を試料として用いた。s-PPは単分子層単位で積層欠陥を形成する。試料s-PPの希薄溶液をキャストしてガラスなどの基盤上に薄膜を作成し、ホットプレートを用いて様々な温度で結晶化させ、ラメラ状結晶試料を作成した。 このラメラ状結晶について、極低温高分解能電子顕微鏡によって、分子鎖の配列に関する情報を記録した高分解能像を撮影することに成功した。この高分解能観察結果と、高分解能像の画像処理については繊維学会誌に投稿中である。 s-PPのラメラ状結晶試料からの電子線回折パターンを解析し、積層欠陥がどの程度存在するかをマクロスコピックに定量した。結晶化温度を高くするほど欠陥の少ない結晶が得られた。また、同じ結晶化温度では立体規則性の低い試料の方が欠陥の少ない結晶を与えた。この事から、欠陥の量は結晶化速度に依存し、ゆっくりと結晶化する条件(結晶化温度が高い・立体規則性が低い)ほど成長面に付着した分子鎖が安定な配置を模索する時間が長く、欠陥の少ない結晶を与えると考えられた。これらの議論については「第10回材料学会高分子材料シンポジウム」および「第49回高分子討論会」で発表した。また、繊維学会誌にも投稿中である。 光学顕微鏡を用いて成長過程を観察し、種々の結晶化温度における(010)面の成長速度を求めた。積層欠陥が存在していることにより、s-PPの(010)面は常に段差を持っているはずなので、成長レジュームIからIIへの転移は存在せず常にレジュームII成長を行うはずである。それにも関わらず、レジューム転移と同様な成長速度の変化が観察された。この点については今後の検討課題である。
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