研究概要 |
近年、プラスチックなどの廃棄物による環境汚染が社会問題となっている中、環境に優しい高分子材料として自然環境中の微生物によって分解される生分解性プラスチックが注目されている。化学合成により得られるポリ(β-プロピオラクトン)(PPL)、ポリ(δ-バレロラクトン)(PVL)は、生分解性を有する直鎖状脂肪族ポリエステルであり、力学的性質にも優れ、将来実用化が期待されている。しかしながら、その結晶構造や酵素分解性に関する研究は、現在のところほとんど行われていない。そこで本研究では、鎖長の異なるこれらの直鎖状脂肪族ポリエステルの結晶構造を明らかにすると共に、その構造と生分解性の相関について検討することを目的としている。本年度は、透過型電子顕微鏡、X線回折装置及びコンピュータを用い、PPLとPVLの単結晶を生成し、その結晶構造及び表面構造の解析を行った。 PPL単結晶は、a軸に沿って分子鎖の折りたたみ構造を有する槍状の形態を示した。格子定数は、a=0.700nm,b=0.490nm,c=0.492nmと求められた。分子鎖は平面ジグザグ構造をとることがわかった。一方、PVL単結晶は、菱形の先端を有する板状結晶を示し、全ての回折点はa=0.747nm,b=0.502nm,c=0.742nmの斜方晶系で指数付けできることがわかった。また、分子鎖はPPLと同様に平面ジグザグ構造をとることがわかった。また、単結晶表面に存在する分子鎖の折りたたみ部分のほぼ頂点には、エステル基あるいはアルカン基の2種類の構造が考えられる。それぞれのエネルギー的な安定構造を比較したところ、PPL、PVLともにアルカン基が折りたたみ部分の頂点に位置している方が安定であることがわかった。
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