研究概要 |
フルウェーブ音波検層で計測したボアホールストンリー波の透過係数に、平行平板き裂モデルを適用してき裂の開口幅を評価すると、得られるき裂の開口幅は過大評価となり、波のエネルギー収支が合わないことが前年度の研究で明らかになった。本年度はこの問題点を踏まえつつ、現実的な開口幅及び通水性の評価を実現するために、多孔質き裂モデルによる解析を行った。結果は次の様に要約される。(1)人工き裂の開口幅は、無加圧時で0.14mm、1MPa加圧時で0.21mm、3MPa加圧時で0.64mmと推定される。(2)人工き裂の通水性は、無加圧時で3.3D、1MPa加圧時で11.2D、3MPa加圧時で305.2Dであると推定される。(3)多孔質き裂モデルによるき裂開口幅の評価結果は、平行平板き裂モデルにより評価結果よりも格段に改善され、トランスミッシビティー試験(Hayashi,K. and Abe,H.,1989)の評価結果に近い結果が得られた。以上要するに、フルウェーブ音波検層で計測されたボアホールストンリー波の透過係数を多孔質き裂モデルで解析することで、地熱貯留層の挙動、すなわち、貯留層き裂の開口変位と通水性を評価することが可能であることを示した。 さらに、本研究ではボアホールストンリー波の反射波を励起すると考えられているき裂波について差分法によるシミュレーションを行い、ボアホールストンリー波の反射係数との関係を検討した。結果は次の様に要約される。(4)き裂波は対称モードとフレクシュラルモードが主に励振される。(5)対称モードの励振効率はき裂の開口幅の増加とともに大きくなるが、フレクシュラルモードの励振効率は小さくなる。これらの結果から、ボアホールストンリー波の反射係数がき裂の開口とともに大きくなるという現象にはき裂波の対称モードが大きく関係していることが明らかになった。
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