研究概要 |
申請者は、Bacillus stearothermophilusのリジル-tRNA合成酵素(B. s. LysRS)のアミノ酸活性化反応は、L-リジン(L-Lys)が先に結合するsequential ordered機構であることを明らかにした。これまでに、(1)アミノ酸活性化反応の際に観測される蛍光変化はTrp314に起因すること、(2)L-Lys結合部位に存在するTyr271の環境が、L-Lysの結合の際に変化し、(a)280-290nm付近に特徴的なUV吸収差スペクトルを示すこと、(b)蛍光(λex=280nm,λem=310nm)が増加することを明らかにした。酵素活性測定からは、Tyr271は、反応の第1段階のL-Lys結合にのみ寄与することが明らかになった。一方、E. coliの2種のLysRS(UとS)のX-線結晶構造解析の結果は、Tyr271に対応する残基Tyr280は、LysRS(U)ではα-アミノ基、LysRS(S)ではε-アミノ基と相互作用することが報告されでいる。そこで今回、L-LysアナログとW314F/W332Fを用いたUV吸収差スペクトルの測定により、Tyr271がどちらのアミノ基の認識に関与するのか調べた。L-Lysとの結合により284nmと287nmに負の、270nmに正のUV吸収差スペクトルが観察された。270nmのピークは、L-Lys結合によりPhe残基の環境が変化することを示した。L-Lysと同様なUV吸収差スペクトルが、SAEC、L-Orn、D-Lys、Cadでも観測された。一方、6-AHAでは、これらと逆の差スペクトルが観測された。また、Gly、L-Norでは、有意な差スペクトルは観察されなかった。これらの結果は、Tyr271由来のUV吸収差スペクトルには、L-Lysのε-ブミノ基との相互作用が必須であることを示唆していた。これらは、Tyr271が本酵素とL-Lysの結合の際にアミノ酸側鎖の認識において重要な役割を果たしていることを示し、B.s.LysRSの基質認識機構改変の重要な足がかりとなる可能性を示していた。略語:6-AHA,6-aminohexanoic acid ; Cad, cadaverine ; Gly, glycine, L-Nor, L-norleucine ; L-Orn, L-ornithine ; SAEC, S-(2-aminoethyl)-L-Cys
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