木材の荷重-変形曲線の弾性領域における圧電現象を詳しく調べるために、この領域における繰り返し圧縮-振動複合応力試験(以下、圧縮試験と呼ぶ)を行った。供試材料にはヒノキ(Chamaecyparis obtuse Endl.)を用い、木取りは、繊維方向が試験体の長さ方向に対して0゜、45゜、30゜、45゜、60゜とした。 その結果、応力(σ)-変形(D)曲線は、負荷時、除荷時いずれの場合も、ほぼ同じ履歴をたどり、曲線形状はいずれの場合も、立ち上がりで下に凸な曲線を示すものの、それ以降はほぼ直線的に増加する傾向が認められた。一方、圧電気出力(P)-変形(D)曲線は、先のσ-D曲線同様、負荷時と除荷時いずれの場合もほぼ同じ軌道を通り、それぞれピーク値または、極値を有する曲線を示した。すなわち、弾性領域内での圧電気出力の挙動は、弾性現象であると考えられた。 ここで、各繊維傾斜角での圧電気挙動とσ-D曲線の微分値との関係について調べた。各々の繊維傾斜角度において両者をプロットするとそれらの間には比較的良い直線関係が認められた。すなわち、圧電気出力が木材中の結晶部分(天然セルロース結晶)の挙動を反映した結果であることを考慮に入れると、σ-D曲線の初期に現われる下に凸な曲線領域は、結晶領域そのものが非線形弾性であるため、木材全体としても同じく非線形弾性として現われたことを示唆している。また、P-D曲線におけるピーク値、あるいは極値における応力値と線維傾斜角との関係を調べたところ、線維傾斜角が増大するにつれて減少することが分かった。この傾向はHookeの関係式からえられたヤング率、あるいはHankinsonの式からえられた圧縮強さと線維傾斜角度との関係と非常に類似していた。
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