研究概要 |
陸域から海域に流入し,富栄養化を引き起こす結合型窒素の多くは,海洋性の脱窒細菌によって分子状窒素(NO, N_2O,およびN_2)に変換され,大気中に除去される。しかし,N_2Oは強力な温暖化ガスでありかつオゾン層破壊ガスでもある。近年,大気中の一酸化窒素(N_2O)量は増加しており,地球環境に大きな影響を与える海域からのこのガスの産生メカニズムは極めて重要である。にも関わらず,海洋の脱窒細菌,とりわけ海水中のそれに関する研究はほとんど存在しない。本研究では,培養法により海水中の脱窒細菌を計数し,脱窒細菌優占株を分離してその脱窒活性の特性や脱窒に関わる遺伝子,特にN_2Oを無害なN_2に変換するN_2O reductase遺伝子群(nosZ)を解析した。同時に海水から直接抽出した細菌DNAからnosZファミリーを検索し,分離菌株のそれを比較した。 好気,微好気,および嫌気条件下での培養法(MPN法)により,兵庫県播磨灘,三重県五ケ所湾および伊勢湾海水中の脱窒細菌を計数したところ,嫌気条件で効率的に計数することができた。しかし,平成12年度に海水中から優占的に得られたnosZ遺伝子を標的としたPCR法により,培養試験管内の脱窒細菌を検出したところ,好気および微好気条件下でも多数の脱窒細菌が計数できたことから,海洋表層には潜在的にN_2O還元活性をもつ細菌が数多く存在していることが明らかになった。またこのPCR-MPN法により従来のガス産生法と比べて感度良く検出することができた。さらに,海水から直接抽出した細菌DNAからnosZファミリーを検索したところ,性質の異なる3海域において,共通して海水表層に特異的なnosZ遺伝子が優占的に検出できたことから,海洋表層には普遍的に,これまで見過ごされてきた脱窒細菌(N_2O還元細菌)が多数存在していることが強く示唆された。
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