研究概要 |
我が国では一部の国からのまぐろ類輸入禁止措置をとっているが,税関での種判別に現時点ではミトコンドリアDNAを用いる手法が採用されている.本手法は確実なものであるが,生ものを扱うには要する時間が長過ぎることが問題となっており,さらに簡便迅速な手法が要求されている.一方,抗原抗体反応は種特異的な抗体が得られれば有望であるが,その反応に平衡化および洗浄を必要とし,数時間を要する.そこで本研究では,抗原抗体反応を用いた検出系に,蛍光ラベルおよびエバネッセンス照明場検出法の適用を試みた. 昨年度研究では,抗パルブアルブミンモノクローナル抗体EG8を3-aminopropyltriethoxysilaneでアミノ基を導入したカバーグラスにグルタールアルデヒドで化学架橋することにより固相化した.TRITC標識したコイパルブアルブミン(TRITC-cPA)を滴下したところ,抗原1分子に相当する輝点が抗体に捕捉され,遊離していく経過が観察された.これにより,抗原抗体反応は1分子レベルで観察すると定常的な反応ではなく,確率的に生じ,ELISAなどで観察される平衡状態は見かけ上のものであると推定された.また,エバネッセンス場照明を用いれば高感度かつ迅速な抗原抗体反応検出法の原理構築が可能であることを照明した. 本年度研究では,昨年度の結果に基づいてエバネッセンス場照明系のもう一つの計測系である表面プラズモン現象を用いて抗原抗体反応の検出を行った.アミノシランキュベットまたはCMDキュベットにEG8を固相化し,種々の濃度のコイパルブアルブミンを添加すると表面プラズモンシグナルが添加量に直線的に比例して増加した.また,結合解離曲線から結合定数および解離定数を算出するとそれぞれ20.0x10^7および21.0x10^<-4>となった.これらの結果と,昨年度得られた抗原と抗体の結合解離における時系列解析を比較するとn数は低いものの,エバネッセンス場照明系で得られた結合・解離速度の方が表面プラズモン検出器によって得られたものより,10倍程度大きかった.これは,表面プラズモン検出器では1分子間の反応ではなく多分子間の平均的な反応が反映されていること,1分子解析では蛍光標識抗原が長時間結合している場合蛍光団が消光する可能性があり,結合時間が過小評価される可能性があることなどが原因であると考えられた.しかしながら,時間あたりの結合数が抗原の濃度を反映することが明らかであるため,測定上は問題ないと考えられる.以上本研究により,エバネッセンス場照明1分子検出法によって抗原抗体反応を数分内で計測できることが明らかとなった.
|