研究概要 |
本研究では,精巣内に存在する分子シャペロンの発現レベルあるいは機能レベルでの変動が,精子の受精能にどのように影響するのか分子生物学的に検討することを目的に、ダイオキシン類による精巣内分子シャペロンの発現レベルの変動をまず観察した。前年度の実験結果から、マウス新生仔精巣の器官培養系では、残念ながら、Calnexin-t (申請者が独自にクローニング,Ohsako et al., JBC,1994)は、ダイオキシン類(eo-PCB)による発現の変動を起こさないことが判明した。また、他のシャペロンである、半数体特異的遺伝子Hsp70tに発現の増加傾向が見られたが、その後の詳細な検討から、これら生殖細胞特異的遺伝子の発現には、ダイオキシン類による変動がないことが明らかとなった。また、細胞質の有意なシャペロンであるHSP90ファミリーにも発現の影響は無く、新生児精巣においては、ダイオキシン類は分子シャペロンの発現になんら影響を与えないことが明らかとなった(Paper subumitted, Toxicol in Vitro)。そこで、本年はさらにin vivoにおい成熟マウスに対する2,3,7,8-TCDD投与実験を行い、分子シャペロンの変動を見ることとした。TCDD 100 ug/kg(マウスのLD50相当)投与後1週間で、精巣内遺伝子の発現を調べたが、上記分子シャペロンに発現の変動はなく、これらの結果から、ダイオキシン類は精巣内分子シャペロン発現に何ら影響を与えないことが判明した。一方、ダイオキシンのバイオマーカーであるCYPlAlは精巣でも、TCDD投与により誘導され、AhRKOマウスでは誘導されなかった。しかし、これらの誘導はダイオキシン高感受性の器官である肝臓や前立腺ほど高いものではなかった。以上の結果は、精巣がダイオキシン類に極めて抵抗性であることを示唆している。
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