研究実施を計画していたAcid-Sensing Proton Channelの抗体作製が困難であることが明らかとなった。そこで今年度は、研究の方向を転換した。本年度は、プロトン感受性ニューロンを同定する代わりに発達期におけるストレス感受性ニューロンの同定を目指した。目的は異なるものの、本年度の交付申請書の研究実施計画に記載した実験手法を用いて研究を進めることができると考えたためである。 当講座で飼育中の妊娠ラットから誕生したラットにストレス胃潰瘍と同様の症状を誘発する薬物である鎮痛解熱剤シンコフェンの腹腔内注射を行った。中枢神経系のストレス耐性獲得の臨界期を調査する目的で、生後7日(P7)、15日(P15)および60日齢(P60)のラットを用いた。海馬、視床下部および扁桃体に着目し、これらの神経核群が被刺激神経細胞となるかどうかをc-Fos抗体を用いた免疫組織化学によって検討した。また、脳内のグルココルチコイド受容体(GR)の発現に日齢差があるかどうかを同様の手法にて調べた。 P7では、いずれの核群においてもこのストレス刺激によるc-Fosの発現はみられなかった。視床下部においてGRの発現が確認された。 P15では、視床下部および扁桃体においてこのストレス刺激によるc-Fosの発現およびGRの発現が確認された。 P60では、視床下部および扁桃体においてこのストレス刺激によるc-Fosの発現およびGRの発現が確認された。 視床下部および扁桃体において、このストレス刺激によるc-Fosの発現およびGRの発現に日齢差が確認された。 海馬では、このストレス刺激によるc-Fosの発現に日齢差はみられなかった。しかしながら、GRの発現そのものに日齢差があることが確認された。 以上の結果は、中枢神経系のストレス耐性獲得に臨界期がある可能性を示唆する新たな知見である。今後さらに研究を続ける必要性があると考えられる。
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