研究概要 |
昨年度の研究から,熱産生器官の褐色脂肪組織(BAT)および褐色脂肪細胞自体に発現する主なNO合成酵素は血管内皮型(eNOS)であり,それが熱産生同様,交感神経性に制御される可能性が示唆された.今年度はその制御経路を調べるために薬物投与実験を行い,以下の結果を得た. 1. 交感神経活動を高める寒冷刺激は,ラットBATのeNOS発現を強く刺激した.この反応はnoradrenaline(NA)およびβ3アドレナリン作動薬であるBRL-37344(BRL)の外因性投与によりシミュレートされた. 2. β1とβ2アドレナリン受容体の拮抗薬であるnadololの前投与は,寒冷暴露によるラットBATのeNOS発現増加を抑制しなかった. 3. NAおよびBRLはBAT細片,分離褐色脂肪細胞の熱産生を増大させる.NA, BRLの投与により,上記のin vitro条件下で, eNOSの発現に変化は見られなかった. 4. NAおよびBRLは褐色脂肪細胞においてadenylate cyclase(AC)を活性化し,cAMPの産生を引き起こす.ACを活性化させるForskolinおよび8-bromo cAMPの投与により,分離褐色脂肪細胞におけるeNOSの発現に変化は見られなかった. 動物を用いた実験では, BATのeNOS発現はNAによりβ3アドレナリン受容体を介して調節される可能性が示唆される.しかし, BAT細片あるいは分離褐色脂肪細胞を用いた実験では,アドレナリン作動薬およびセカンドメッセンジャーによるeNOS発現増加の直接効果が得られなかった.従って,上記の作動薬によるeNOSの発現増加は間接的作用あるいはBAT熱産生とは異なる経路を介して調節されている可能性が推測される.この点をより明確にするために,褐色脂肪細胞培養系での解析も併せて行う必要がある.
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