研究概要 |
咋年度までに,麻酔ラットにおいて鍼刺激が大脳皮質局所血流を増加させること,この反応は鍼刺激部位を支配する体性神経を求心路とし,脳内の前脳基底部コリン作動性神経を介することを明らかした.鍼刺激による大脳皮質血流増加反応にはニコチン性アセチルコリン受容体が関与していたが,ニコチン性受容体を介して大脳皮質血流が増加する機序は明らかにされていない. 本年度はニコチンを静脈内投与することによりニコチン性受容体を刺激した際に起こる大脳皮質血流増加のメカニズムを検討した.前脳基底部刺激で起こる大脳皮質血流増加反応には一酸化窒素(NO)が関与する(Adachi et al.,1992).大脳皮質血管周囲にはNO合成酵素(NOS)を含む神経が存在し(Vaucher et al.,1997),このNOS陽性細胞がニコチン性受容体を持つ(Csillik et al.,1998).これらの報告から,ニコチン性受容体刺激により大脳皮質血管周囲でNOが遊離され血管が拡張して血流が増加する可能性が考えられる.そこで,ニコチン性受容体刺激による大脳皮質血流増加にNOが関与するかを検討した. ウレタン麻酔したラットの前頭葉の大脳皮質局所血流をレーザードップラー血流計を用いて連続測定した.ニコチン性受容体の刺激はニコチンを静脈内投与することにより行った. 30μg/kgのニコチンを静脈内投与すると全身血圧が変化することなく大脳皮質血流が20分以上にわたり増加した.ニコチンによる大脳皮質血流増加はニコチン投与前の約160%に達した.NO合成酵素阻害薬(L-NAME)30mg/kg, i.v.を前投与したラットにおいてはニコチン(30μg/kg)による大脳皮質血流増加が約1/3に減弱し,この血流増加の減弱はL-Arg(300mg/kg, i.v.)投与で回復した. 以上の結果から,ニコチン性受容体刺激による大脳皮質血流増加にはNOが関与することが明らかとなった.
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