摂食および睡眠・覚醒を制御すると考えられているオレキシンの生理的役割を詳細に解析するための手段として、オレキシン神経特異的に、免疫毒素の標的蛋白質となるヒトIL-2受容体αサブユニット(hIL-2Rα)を発現しているトランスジェニックマウスの構築を進め、昨年までにほぼ全てのオレキシン神経にhIL-2Rαを発現しているラインを得ることができた。 本年度は、まず正常マウスの視床下部内におけるオレキシン神経の詳細な分布を免疫蛍光抗体法を用いて解析したところ、ブレグマから1.72mmの位置をピークとして前後軸方向に均等に分布していることが明らかとなった。次いで、昨年までに作成したオレキシン神経に限局してhIL-2Raを発現するトランスジェンニックマウスの側脳室および第3脳室に、免疫毒素anti-TacPE38を濃度を変えながら投与した後、同様の手法でオレキシン神経の分布の変化を観察した。すると、側脳室に免疫毒素を投与した場合には、オレキシン神経数は約半数に減少しており、特に視床下部内の前方部分において限定的にオレキシン神経の消失が見られた。一方、第3脳室に投与した場合には、視床下部の全行くにわたってオレキシン神経の消失が見られ、細胞数は40%にまで減少していた。 以上より、生後特定の時期に後天的に、しかも前後軸方向に任意に偏りを持たせながら、オレキシン神経を除去できる手法を確率することができた。今後は、こうしてオレキシン神経の一部を除去したマウスにおける表現型の解析を進め、視床下部内のオレキシン神経の位置と生理的機能との相関について詳細なマッピングを進める。
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