研究概要 |
Rorファミリー受容体型チロシンキナーゼ(RTKs)は構造の類似した2つのメンバー(Ror1,Ror2)から成り、発生過程におけるパターン形成、特に骨軟骨、心・大血管、肺形成といった多様な局面において機能する極めて重要な分子である。しかし、その重要性にも関わらず、Ror1,Ror2は共にリガンドが同定されておらず、シグナル伝達機構についてもほとんど不明であった。本年度、我々はマウス胚発生過程におけるRor1,Ror2の発現動態を詳細に検討すると共に、Ror2のリガンドの探索およびRor2を介するシグナル伝達機構の解明を試みた。マウス胚発生過程においてRor1,Ror2は神経堤細胞、間葉系細胞を中心に発現が認められ、Ror1,Ror2のノックアウトマウスを用いた組織学的解析結果と併せて、Ror1,Ror2は神経堤細胞や間葉系細胞の増殖、移動、分化の過程に関与し、形態形成を制御することが強く示唆された。また、RorRTKsは細胞外領域にWntの受容体であるFrizzledのWnt結合部位と相同性の高いドメイン(CRD)を有しており、Wnt若しくはWnt様のタンパク質がリガンドであることが期待されていたが、我々は、Ror2ノックアウトマウスの表現型がWnt5aノックアウトマウスの表現型と著しく類似することや、Ror2の細胞外領域がWnt5aとin vitroで会合し得ること、その会合にRor2のCRDが必要であることを明らかにし、Wnt5aとRor2がリガンド・レセプターの関係にあることが強く示唆された。加えて、Ror2の細胞内領域にWntシグナル伝達の制御因子であるDishevelled, CKIεが物理的に会合し、Ror2の活性化を誘導すること等を明らかにし、Ror2がWnt5aの受容体複合体の構成要素として、Wnt5aによるシグナル伝達系を制御する可能性が示唆された。
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