研究概要 |
テトラヒドロビオプテリン(BH4)はフェニルアラニン水酸化酵素(PAH)、チロシン水酸化酵素(TH)、トリプトファン水酸化酵素(TPH)および一酸化窒素合成酵素(NOS)のコファクターとして働く重要な分子である。本研究では、ジーンターゲッティングの方法によりBH4生合成の第2段階を触媒する6-ピルボイルテトラヒドロプテリン合成酵素(PTPS)の遺伝子ノックアウトマウスを作成した。ホモ接合体はメンデル則に従って出生したが(22.2%,n=424)、全例48時間以内に死亡した。ホモ接合体マウスの脳ではビオプテリンが野生型の6.3%に減少し、前駆物質に由来するネオプテリンが17.6倍に蓄積していた。ドパミン(DA),ノルエピネフリン、セロトニン(5HT)がそれぞれ野生型の14.6%,6.3%,7.8%に減少し、脳内のフェニルアラニン含量は約2倍であった。新生仔脳ホモジネートのTH活性は野生型の7%、NOS活性は72%に低下していた(n=4)。THのmRNA量には著明な差はなかったが、脳ホモジネートのウエスタンブロッティングではTHのタンパク質量が選択的に減少していることが確認された。組織化学の結果から、ホモ接合体の線条体や交感神経終末でTHタンパク質が著明に減少していることがわかった。このマウスにBH4を腹腔内投与したところ、投与後1時間でもDAに比べて5HTが大きく上昇した。またホモ接合体マウスにBH4を腹腔内投与して1週間生存させたところ、TH活性はコントロールの50%にまで回復した(n=3)。この研究から、神経終末部のTHタンパク質量は細胞内のBH4量に高度に依存しており、BH4によって、カテコールアミン系、セロトニン系、NOの系がそれぞれ異なる調節をうけることが明らかになった。
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