研究概要 |
高感度の非放射性in situ hybridization法により、肺の腺癌(AD)20例、扁平上皮癌(SQ)21例、大細胞癌(LCC)9例、定型カルチノイド(TC)30例、非定型カルチノイド(ATC)13例、大細胞性神経内分泌癌(LCNEC)67例、小細胞癌(SCLC)78例など合計238例の肺癌において、HASH-1mRNAのin vivoでの発現を調べた。2/20(10%)のAD,0/21(0%)のSQ,0/9(0%)のLCC,4/30(13.3%)のTC,11/13(84.6%)のATC,38/67(56.7%)のLCNECと56(71.8%)のSCLC例に、種々の程度のHASH-1mRNAの発現を認めた。また、免疫染色にて全てのHASH-1(+)のLCNEC/SCLC例(94)に、細胞のホルモン産生・貯蔵能との密接な関係のあるchromograninA(CGA)或いはgastrin-releasing peptide(GRP)或いはcalcitonin(CT)も陽性であり、逆に殆どのHASH1(-)のLCNEC/SCLC(41/51)例にCGA・GRP・CTも陰性であり、HASH1発現とCGA/GRP/CT発現との間に強い相関を認めた(p<0.0001,r=0.852)。HASH-1(+)の2例のADにもCGAとCTが陽性で、その内の1例にGRPも陽性であった。以上の結果より、HASH-1は神経内分泌分化を有する肺癌のみに特異的に発現し、HASH-1は肺がん細胞の神経内分泌分化の決定遺伝子であることが示唆された。更に、肺の神経内分泌腫瘍のおいては、HASH-1は広い意味の一般的な神経内分泌分化ではなく、腫瘍のホルモン産生・貯蔵・分泌能、即ち腫瘍のendocrine phenotype分化の決定付けに不可欠の因子であることが強く示唆された。また、HASH-1はほぼ完全に分化したTCには殆ど発現せず、逆により分化度の低い大部分のATCに発現していることより、肺がん細胞のendocrine phenotypeの決定に当たって、HASH-1は早期因子であることが推測された(第91回アメリカ・カナダ病理学会、第90回日本病理学会、第42回日本肺癌学会発表)。
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