研究概要 |
最近、腎不全、透析合併症の発生、進展に蛋白質の非酵素的糖化反応後期生成物AGE(advanced glycation end-products).特にAGEのsubclassである糖酸化反応後期生成物pentosidineやcarboxymethyllysineが注目されている。本研究の目的は、腎不全、透析患者の心筋障害の促進因子としての糖酸化反応の役割を明らかにすることである。 我々は慢性腎不全患者の心臓剖検標本を採集し、心臓細胞外マトリックスコラーゲンを抽出した。コラーゲンの糖酸化産物pentosidine量を蛍光測定法(励起波長335nm、蛍光波長385nmで定量した。また、心臓コラーゲンの脂質過酸化産物malondialdehyde(MDA)も蛍光測定法(励起波長390nm、蛍光波長460nmで定量し、糖酸化反応産物量との相関性を分析した。その結果、酸化反応の亢進がよくみられる慢性腎不全患者剖検例から得られた心臓コラーゲンの糖酸化反応産物pentosidine量は透析患者を含む慢性腎不全患者で著明な増加を認め、脂質過酸化産物MDA量との間に強い相関も認めた(Cardiovascular Research,2000,Vol.47,306-313)。また、慢性腎不全患者の皮膚を採集し、もう一つの糖酸化反応産物carboxymethyllysine(CML)量をELISAで測定したところ、皮膚コラーゲンの糖酸化反応産物CML量も透析患者を含む慢性腎不全患者で著明に増加したことは確認された(Nephron 2001;Vol 88,30-35)。即ち、心臓以外の組織の糖酸化反応の亢進もみられた。以上のことから慢性腎不全患者では全身糖酸化反応亢進の結果として心臓糖酸化反応も亢進し心臓マトリックスコラーゲンの障害をもたらすことは示唆された。そこで我々は、慢性腎不全状態で糖酸化反応の亢進を引き起こす生化学経路の検討を行い血中urea増加によって心臓心臓細胞外マトリックスコラーゲンの糖酸化反応からurea hydrogen peroxide(UHP)産生の亢進が発見された。さらにUHPがFenton反応を経て心臓コラーゲンのpentosidine産生を促進することも明らかにした(J Am Soc Nephrol 2002,in press)。このUHP-Fenton経路を解明することによって腎不全、透析患者の心筋障害の成因に新しい知見が得られ、予防及び治療法の開発に役にたつと考えられる。
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