研究概要 |
RET遺伝子はGlial cell line-derived neurotophic factorをリガンドとする受容体型チロシンキナーゼをコードしており、活性化型変異が多発性内分泌腫瘍症(MEN)2A,2B型家族性甲状腺髄様癌で、その不括性化型変異がHirschsprung diseaseで検出され原因遺伝子であることが明らかになっている。本研究ではRETを介する細胞内情報伝達経路の解析を行い、また各疾患で検出される変異がRETを介するシグナルに与える影響ついても検討した。 1)Hirschsprung diseaseで検出されたRET遺伝子のキナーゼドメインの変異による機能障害機構の解析を行った。キナーゼドメインに検出された10カ所の変異をRET遺伝子に導入し神経系由来の細胞株であるSK-N-MCに発現させ機能解析を行った。5カ所の変異(S765P,R873Q,F893I,R897Q,E921K)ではキナーゼ活性の低下が検出され、リガンド刺激による下流のシグナルの活性化がみられなかった。P973L はmRNAレベルでの発現の低下により、RET蛋白が発現しないことがわかった。4カ所の変異(E762Q,S767R,R972O,M980T)では蛋白の発現およびキナーゼ活性はみられるものの下流のシグナルであるPLC-γの活性化の低下が顕著であった。以上より一部のHirschsprung diseaseの発症にPLC-γを介するシグナルが関与している可能性が示唆された。 2)RETを介する主要なシグナルはRETの1062番目のチロシン残基を介することが判明しており、この部位に結合する蛋白の同定を行った。結合蛋白の1つとしてPTB domainを有するFRS-2を同定し、RETと結合し活性化し、Grb2,SHP2などの分子が結合することが明らかにした。FRS-2はRas/MAPKの系の活性化に関与していると考えられた。また、RETの細胞内domainをbaitとしたYeast two-hybrid法によりRET結合蛋白としてドッキング蛋白であるDok1を同定した。Dok1もPTB domainを介して1062番目のチロシン残基に結合し、活性化することを証明した。Dok1はRsa-GAPと結合しRas-MAPK系に抑制的に働く一方、JNKを活性化することをみいだした。MEN2B型変異RETを導入した細胞ではMEN2ARETを導入した細胞と比較してDok1との結合、リン酸化が強く、またJNKもより強く活性化しており、MEN2BとMEN2Aとの表現型にこれらのシグナルが関与している可能性が示唆された。
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