研究概要 |
ラットやヒトの初代培養細胞には、がん遺伝子による細胞のトランスフォーメーションを抑制する遺伝子が発現している。本研究では、ラット初代培養細胞に発現しているトランスフォーメーション抑制遺伝子をcDNAサブトラクション法を用いて単離し、機能解析を行った。単離した遺伝子は、全部で71種類(既知の遺伝子が38種類、新規の遺伝子が33種類)で、これらをTRIFと命名した。既知遺伝子の中には、既にc-Mycによる細胞がん化を抑制されることが分かっているBINI遺伝子(TRIFl06)やがん抑制遺伝子p53によって発現が誘導されるIGFBP-3(TRIF60)などがあった。研究代表者は、単離してきた遺伝子のうち、既知遺伝子であるTRIF52(periostin),及び新規遺伝子のTRIF97について機能解析を行った。periostinは、ほとんどの正常組織では発現しているが、多くのヒト癌細胞株(26/29種類)、及び、ヒト肺小細胞癌(3例中3例)でその発現が低下していた。また、periostinの発現が低下している癌細胞株、CADO-LC-4,T24,SaOS-2にperiostinを導入したところ、足場非依存性増殖が抑制された。さらに、この抑制にはperiostinのC末端側が必須であることが分かった。また、periostinはN末端側にシグナルペプチド配列を持ち、分泌型蛋白質であると考えられているが、足場非依存性増殖の抑制には、分泌されずに細胞内に留まっているperiostinが関与していることが分かった。次に、新規遺伝子であるTRIF97は、その推定アミノ酸配列から、新規の低分子量G蛋白質であることが予想された。TRIF97をv-srcでトランスフォームした細胞に導入すると、足場非依存性増殖の抑制が認められた。以上のことから、periostinやTRIF97は細胞がん化に対して抑制的に働くと考えられる。 今後、単離してきた遺伝子を順次解析することにより、細胞のトランスフォーメーションの抑制だけでなく、ヒト癌発生の分子機構に深く関与しているものを同定していくことが重要である。
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