研究概要 |
細菌が宿主に侵入した後の諸段階において,各々の宿主内環境に応じた遺伝子の発現を制御することは感染の成立に重要であると考えられる。我々はこれまでにリステリア(Listeria monocytogenes)の主要なストレス蛋白質であるDnaKの遺伝子をクローニングし,その変異株を作成した。その変異株の性状からリステリアの鞭毛合成にDnaKが関与していること,さらにDnaKがflagellinの遺伝子flaAの発現に転写の段階で関与していることが明らかとなった。これらの結果を基に,本研究においてDnaKがリステリアの病原性に関する遺伝子の発現に関与している可能性を検討した。 DnaK変異株のマクロファージ内増殖能および上皮細胞内への侵入は野生株と同様であることから,これらに関与した病原遺伝子の発現にDnaKは関与していないと考えた。そこで遅延型過敏症を惹起する因子LmaAをコードする遺伝子ImaAおよび貧食に関与するp60をコードする遺伝子であるiapに着目し,dnak変異株におけるこれらの遺伝子のmRNAの量およびプロモーターからの転写活性を野生株と比較した。mRNA量はノーザンブロット解析により,またプロモーターからの転写活性はiap上流およびlmaBの上流にあるプロモーター領域をルシフェラーゼ遺伝子に連結させたレポーターアッセイ系を構築しルシフェラーゼ活性を用いてそれぞれ比較した。その結果,iapの転写はdnaK変異の影響を受けなかった。一方,lmaAのmRNA量およびプロモーターからの転写はdnak変異株において顕著に低下していることが明らかとなった。 これらの結果からDnaKがlmaAの転写を制御することにより,リステリアの病原性に関わっている可能性が示唆された。
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