研究概要 |
タイラーウイルス(TMEV)の急性亜群はマウスに致死的な急性灰白脳脊髄炎を起こし、慢性亜群はその脊髄に持続感染し、炎症細胞浸潤を伴った一次性脱髄を引き起こす。慢性亜群が示す病理像は多発性硬化症に類似しており、このことからTMEVは多発性硬化症の動物モデルとして注目されている。近年、ウイルスポリ蛋白とは別個に翻訳される17kDaの小さな蛋白L^*が報告されている。このL^*蛋白は慢性亜群でのみ合成されることから、持続感染・脱髄のキー蛋白として注目されている。 今までL^*蛋白の研究は、L^*蛋白開始コドンAUGをACGに変異させたL^*蛋白欠失DA変異ウイルスを用いた"loss of function"の系、およびL^*蛋白産生GDVIIリコンビナントウイルスを用いた"gain of function"の系により、L^*蛋白の機能解析にとどまっていた。しかし、L^*蛋白の性状解析は全く進んでいなかった。本研究ではL^*蛋白に対する特異抗体を作製し、この抗体を用いて、感染細胞におけるL^*蛋白の動向を検索した。 L^*蛋白の70-88番目のアミノ酸残基に相当する合成ペプチドによりウサギを免疫し、ポリクローナル抗L^*蛋白抗体を得た。この抗体を用いてウイルス感染BHK-21細胞におけるL^*蛋白の性状を調べたところ、L^*蛋白はカプシド蛋白と同様な経時変化で合成され、ウイルス粒子には取り込まれず、細胞質内で微小管に結合して安定に存在していることが分かった。さらに持続感染の主要な場であるマクロファージにおいても、L^*蛋白と微小管の関わりが示唆された(Virology,289:95-102,2001)。
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