研究概要 |
産業医学の分野で、その原因がSiO_2を骨格に持つ珪酸塩化合物への曝露と考えられる自己免疫疾患を呈する症例群がある。特に、珪肺症における強皮症やSLEなどの合併は有名であるが、その発症機序は明らかではない。昨年度、珪肺症症例における自己抗体の高頻度の出現に着目し、アポトーシス関連因子に対する自己抗体を調べたところ、抗Fas自己抗体が自己免疫疾患の症状を伴わない珪肺症症例血清中で確認された。そこで本年度は、この抗Fas自己抗体がFas分子のどの部位と反応するかを調べるために、SPOTsメンブレンを用いたepitope mappingを行い、さらにWestern blottingによりイムノグロブリン(Ig)サブクラスの解析も行った。その結果、Fas分子上のepitopeは各人に複数存在し認識部位はほぼ共通していたが、健常人に比べて珪肺症症例で多数確認された。細胞外領域におけるepitopeは、3つのシステイン残基に富む領域に集中しており、これらのepitopeの中にはFas ligand(FasL)との結合に重要とされるアミノ酸を含んでいるものもあり、この抗Fas自己抗体がFas/FasL interactionを阻害する可能性が考えられた。また、細胞内領域ではepitopeはすべてdeath domainに存在し、珪肺症症例で確認されたepitopeの1つにはFADD(Fas associating protein with death domain)との結合に関係しているアミノ酸が含まれていたことより、この抗Fas自己抗体のFas/FADD interactionへの関与が考えられた。抗Fas自己抗体のIgサブクラス解析では、IgG1〜4,IgM, IgAの6種類すべてのIgが健常人および珪肺症症例で確認され、主要なIgは健常人ではIgMおよびIgA、珪肺症症例ではIgG1であると思われた。今後、この抗Fas自己抗体によるアポトーシスの調節機能への影響について、さらに検討していく必要があると思われる。
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