研究概要 |
一酸化炭素(CO)中毒においては、器質的な遅延性障害として、大脳皮質、基底核および海馬の神経脱落が認められる。CO中毒の機序についてはCO-ヘモグロビン形成による酸素運搬能の低下のほか、CO自身がケミカルメディエーターとして働く可能性も示唆されている。この神経細胞死の詳細な機構解明のために、ヒト神経芽細胞腫SH-SY5Y細胞を神経細胞のモデルとして用い、基礎的な検討を行った。COで飽和させたダルベッコ変法イーグル培地で細胞を培養し、MTT[3-(4,5-dimethylthioazol-2-yl-2,5diphenyl tetrazolium]法により、生存している細胞を定量した。また、培地中に放出される神経伝達物質、グルタミン酸およびドパミンをHPLC法により定量した。CO作用72時間後には、細胞のMTT還元能がコントロール群の57%まで低下した。培地中のグルタミン酸濃度は、時間とともに上昇した。CO作用後24時間までに培地中に放出されたグルタミン酸は、コントロール群に比較して有意に増加したがその程度は小さかった(118%)。一方で、培地中のドパミン濃度は実験開始後10-30分で最大となり、以後時間とともに低下した。CO作用群のドパミン濃度の最大値は、コントロール培地中よりも低く、ドパミンの放出は惹起されなかった。酸素を輸送する必要のない培養細胞においても、COにより細胞死が誘導された。この結果から、COが直接神経細胞に作用して細胞死を誘導することが示された。この機構については更に詳細な検討が必要であるが、グルタミン酸濃度の上昇が関与している可能性が示唆された。
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