法医解剖症例90例の血清について、ELISA法を用いてIL-6(Interleukin-6)の測定を行った。試料は、死後2日以内の死体について剖検時に採取した心臓血を直ちに遠心分離し-30℃で凍結保存したものを用いた。結果は予め剖検により得られた死因によって、外傷による死亡群(外傷群)、疾患による死亡群(疾患群)、前二者に含まれない死亡群(非外傷群)に分類して評価した。外傷群は疾患群及び非外傷群より有意に高値であったが、法医解剖症例の場合、受傷から死亡までの経過時間及び死亡から剖検開始までの時間が不詳の場合が多く、受傷後の経過時間とIL-6値の関係の評価は困難であった。なお、本研究の当初の目的であった外傷性ショック症例についての評価では、全症例でIL-6は高値を示したことから、剖検で致死的損傷が確認されなくても生体は高度の侵襲を受けていることが証明できた。ところで、本研究では、従来は外傷受傷後数時間〜半日程度してから上昇すると言われていたIL-6が、即死したと思われる重傷患者でも高値を示すことが確認された。また、非外傷群の中には、従来IL-6が上昇すると考えられていた外傷・感染症・腫瘍などの病態がみられなくてもIL-6の異常上昇を呈す症例がみられるという大変興味深い知見が得られた。特に、後者の知見は剖検しても直接死に至るような損傷や致死的疾患がみられないような症例の際に、生体が受けていた侵襲の評価を行うことによって死因判断への糸口が見つかる可能性があることから、今後法医学的死因診断に大きな役割を持つものと期待できる。現在、IL-6以外の侵襲のマーカーとなるサイトカインについてもデータを集積中であり、次年度はこれらを総合的に評価することによって、より詳細な侵襲の評価法を確立したい。
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