研究概要 |
今回の研究で我々は、RFLP markerおよびmicrosatellite markerを用いて、胃癌におけるdeletion mapの作成を行い、世界で初めてchromosome 1における共通欠失領域を決定し、chromosome 1に存在する胃癌癌抑制遺伝子の単離を目指す。markerとして、microsatellite markerを用いることから、同時にRER(replication error)の検出も可能であり、最近注目されている、胃癌とDNA修復機構の関係も明らかにすることができる。近年、胃分化型腺癌と胃低分化型腺癌の発癌メカニズムの違いも指摘されてきていることから、組織型の違いによる異常の検索もあわせて行う。また、新たなRFLP markerおよびmicrosatellite markerを単離することは、今後、他臓器の癌や遺伝性疾患の原因遺伝子の解明に新たなる道を開き、国際的評価に耐えうる研究と考えている。胃癌は世界で最も発生頻度の高い癌であるが、その発癌過程はいまだあきらかでない。Erb B2, k-sam, p53などの遺伝子異常の報告や、染色体1,5,7,12,17,18番といった染色体において欠失の報告がされ、missmatch repair systemの異常も報告されている。第1番染色体はヒト染色体において最も大きな染色体であり、その欠失は神経芽腫、多発性内分泌腫瘍2型、乳癌、肝細胞癌、大腸癌などで報告され、未知の癌抑制遺伝子の存在が示唆されている。今回我々は胃癌の発癌機構の解明を目指し、胃癌における第1番染色体の欠失地図の作成および新たな癌抑制遺伝子の単離をこころみた。 詳細なるdeletion mapを作成するために、ヒト染色体1番をのみを含むgenomic DNAのcosmid libraryをから、cosmid DNAを抽出した。健常者のリンパ球から抽出したgenomic DNAをMsp I, Taq I, Pst I, Pvu IIなどの制限酵素で切断し、アガロースゲル電気泳動をした後、メンブレンに転写し、抽出したcosmid DNAをプローブとして、Southern hybridizationを行い、新たに57個のRFLP(restriction fragment length polymorphism)markerを単離した。また、CAの繰り返し配列を10個もったオリゴDNAを作製し、それをプローブとしてcosmid DNAとハイブリダイズさせることで、新たに7個のmicrosatellite markerを単離した。 これらmarkerと、既知のRFLP markerとmicrosatellite markerをあわせて、胃癌25症例についてLOH(loss of hetrozygosity)studyを行った。Informativeなmarkerは、RFLP markerでは3個、microsatellite markerでは9個であった。 その結果、D1S201からD1S197の間に共通欠失領域を見い出した。現在この領域より癌抑制遺伝子の単離をこころみている。
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