研究概要 |
我々はこれまでヒト肝細胞の初代培養系で効率良いウイルス複製が得られることを報告し[J.Gen.Virol.77:1043-54(1996)]、また、HCVの感受性の低い肝癌細胞株HepG2にヒト肝細胞を融合させ、得られた融合細胞(IMY細胞)クローンの中にHepG2と比較しHCV感受性が高まっているクローン(N9)が存在することを発見した[Hepatology 34:566-572(2001)]。この結果は細胞融合によって、HepG2細胞に新たに発現する、また逆に発現が抑制される宿主因子によってHCVの感受性が変化する可能性を示唆している。このことからHCV複製系の開発には、HCV複製に必要な宿主因子の解明及びゲノムRNAとの相互作用の検討が同時に必要である。一方、LohmannらはHCVの非構造蛋白と非翻訳領域のみのsub genomic RNAが肝癌の細胞株で複製し続けることを報告した[Science 285:110-3(1999)].これらの事実はHCV非構造蛋白のみでHCV RNAが複製可能であることを示し,かつHCV構造蛋白もしくはそのRNA領域がHCV RNA複製を自己調節する可能性も示唆している.本研究ではHCV増殖因子を宿主細胞因子とウイルス側因子に分けて解析を行った。 (IMY-N9細胞におけるHCV複製宿主因子の解析) HCV感受性細胞であるIMY-N9細胞と親細胞でHCV感受性の低いHepG2細胞のGene chip解析をマイクロアレイを用いてそれぞれ行った。HCVと同じフラビウイルスに属するデング熱ウイルスのレセプターとしてヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)が報告されているが、解析した一万以上の遺伝子の中でHSPG発現がIMY-N9細胞内で著明に増加していた。このことからIMY-N9細胞の細胞内entryにおいて、HSPGがレセプターとして働いている可能性が示唆された。現在HSPGのHCVレセプターとしての機能解析をIMY-N9細胞を用いたHCV感染系で行っている。 (HCV-luciferaseキメラRNAを用いたHCV RNA翻訳制御機構の解析) Infectious HCV cDNAと報告されているpCV-J4L6Sの非構造蛋白をlucuferase遺伝子に置換したT7 based plasmidを作製し、このプラスミドからT7 RNA polymeraseを使ってHCV-luciferaseキメラRNAを作製した。同様に各構造蛋白の一連のdeletion mutantを作製した。これまでHCV 3'UTRのX領域が5'UTRからcoreまで含むキメラRNA上でIRES依存性翻訳増強効果を示すと報告したが[J.Vitol.72:8789-8796(1998)]、HCV 5'UTR,core,E1,E2を持つHCV-luciferaseキメラRNAで3'UTR全長が翻訳増強効果を示すかを検討した。兎網状赤血球抽出液を用いた試験管内翻訳系において、5'UTRからcoreまで含むキメラRNA上のHCV 3'UTRはX領域のみの検討と同様に、2-5倍の翻訳増強を示した。一方、E1,E2まで含むキメラRNAにおいてHCV 3'UTRは約20倍の翻訳増強を示した。このことから構造蛋白領域はHCV RNA翻訳制御機構に関与していると推察された。
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