大脳誘発反応(以下、AEP)のN300成分を指標として、人においてREM睡眠に特徴的な大脳皮質の活動がいずれの時点で変化するのかを明らかにした。10名の男子大学生を被験者とし、脳波は国際10-20法によるC3、C4、Czから導出し、EOGとEMGを同時にモニターした。AEPの記録のために、1000Hz、60dBnHL(normal hearing level)、刺激間隔1.0秒の音刺激を呈示し、被験者の通常の入眠時刻から翌朝の自然覚醒に至るまでの終夜ポリグラフ記録を行った。睡眠中のAEPはCzより記録し30回の平均加算をして求めた。解析区間は刺激開始前の128msecと刺激開始後の672msecをあわせた800msecとし、N300は刺激開始後の280msecより330msecまでの間の最大振幅の陰性成分とした。尚、脳波の睡眠段階の判定は、Rechtscaffen and Kalesのガイドラインに従った。解析の結果、NREM睡眠からREM睡眠に移行する時期のポリグラフ所見には、2つのタイプを認めた。第1は、sleep spindleもしくはK-complexの消失後も0.5分間から2.5分間にわたってEMG上で観察される骨格筋活動の抑制が出現しないタイプで10名中の5名に認めた。第2は、sleep spindleもしくはK-complexの消失後の10秒以内に骨格筋活動の抑制が出現したタイプで残りの5名に認めた。第1のタイプでのN300は、sleep spindleもしくはK-complexが出現している時期には高振幅を示したが、それらが出現を中止し、かつ、骨格筋活動の抑制がいまだ出現しない(したがって、Rechtscaffen and Kalesの基準ではREM睡眠とは判定されない)時期の0.5-2.5分間にわ先る時期においては著明に低下した。第2のタイプを示した5名のうちの3名では、N300はsleep spindleもしくはK-complexの消失と同時に振幅の低下を示し、残りの2名では、sleepspindleもしくはK-complexの消失に先立つ時期の0.5-1.0分間にわたる時期において低下傾向を示した.今回の成績から、REM睡眠に特徴的な生理学現象は必ずしも同時に出現し始めるのではなく、特にヒトでは、REM睡眠に特徴的な脳波活動が他の2つの現象(急速眼球運動の出現と骨格筋活動の抑制)に先立って出現する場合があることが示唆された。
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