研究概要 |
視覚におけるPop-out現象は前注意的処理の表れと考えられている。我々は,Pop-outが生じる図版を用いて視覚探索課題を行い,精神分裂病患者の視覚認知における前注意的処理の障害について検討した。 対象は精神分裂病患者30名,健常者30名とした。呈示図版は,Pop-out条件,非Pop-out条件の2種類を用いた。Pop-out条件の図版として同心円状に配置した背景成分'X'の間にひとつの標的成分'L'をランダムに配置したものを,非Pop-out条件の図版としては背景成分'T'の間にひとつの標的成分'L'をランダム今に配置したものを用いたいずれも,成分数は6個,18個,36個の3段階を用意した。 椅子に座った被験者の前方にスクリーンを設置し,スライド映写機にて図版を提示した被験者にはアイマークレコーダーを取り付け,検査中の眼球運動は全てビデオテープに録画した。まずスクリーン中央に点を提示し,被験者にそれを凝視させた。図版が提示されたら標的を探し,見つけたらできるだけ早く.手元のボタンを押すよう指示した。図形の提示順序はランダムで,5秒間隔で提示が繰り返された。 録画された眼球運動をコンピュータに取り込み解析を行ったが,その結果,Pop-out条件において,1)分裂病では構成成分が18個,36個のとき,健常群と比較して有意に的中率(図版提示直後から視点が標的成分の方向に動く割合)が低下していた。2)視点が標的成分に到達するまでの時間が分裂病では構成成分の増加と共に延長し,健常群との間に交互作用を認めた。 以上の結果より,分裂病では視覚認知においてPop-outが十分に生じず,前注意的処理に障害があることが示唆された。
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