インスリンにより活性化されたホスホジエステラーゼ3B(PDE)は細胞内cAMPを低下させ脂肪分解を抑制する結果、血中遊離脂肪酸(FFA)を低下させる。FFAの上昇は骨格筋や肝臓におけるインスリン抵抗性をきたすことより、脂肪細胞でのPDE活性の低下は血中FFAを上昇させインスリン抵抗性を惹起することが予想される。実際、自然発症の肥満インスリン抵抗性糖尿病モデルの一つであるKKAyマウスの脂肪細胞ではPDE遺伝子発現が低下し、血中FFAが上昇し、インスリン感受性が低下していることが報告されている。 そこで本研究ではインスリン受容体基質-1(IRS-1)ノックアウトマウス(IRS-1 KO)を用い、PDE蛋白量及びmRNA量、さらには脂肪細胞を単離しインスリン刺激によるPDE活性を検討した。IRS-1の単一遺伝子変異によるインスリン抵抗性モデルマウスを用いることにより、IRS-1がPDE遺伝子の発現ならびにインスリンによる活性化に特異的に関与しているか否かが、またPDEがKKAyマウスで見られたインスリン抵抗性に一義的に関与するか否かが明確になる。 IRS-1 KOでは対照マウスC57BL/6Jに比しPDE蛋白が1.2倍、mRNAが1.4倍に増加していた。また単離脂肪細胞ではインスリン刺激によるPDE活性化(インスリン刺激後/前)は対照の1.7倍に比し1.35倍と低下していることが観察された。現在、PDE遺伝子発現調節へのIRS-1の関与の詳細をさらに解析中である。
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