研究概要 |
我々はこれまでに、肝切除術後の胆汁中ビリルビン亜分画組成変化の発現機序に関して基礎的研究を行ってきた.その結果、胆汁中ビリルビン亜分画の組成変化は、肝組織中のNAD+量の低下によるグルクロン酸抱合の基質であるUDP-glucuronic acid生成の低下を反映している可能性が示唆され、胆汁中ビリルビン亜分画の変動は間接的に残存肝のエネルギー状態を反映していると考えられた.現在、臨床的に肝臓のエネルギー状態を反映する有用な指標はなく、臨床的に胆汁中ビリルビン亜分画の変動の意義が確立できれば、新しい肝のエネルギー状態を表す指標として肝切除術の周術期管理に広く役立つと考えられる.そこで今回は、臨床例において様々な予備能力を持つ(正常肝から肝硬変まで)症例における肝切除術後の胆汁中ビリルビン亜分画を測定し、残存肝のエネルギー状態を表す指標として胆汁中ビリルビン亜分画の変動が臨床的に何を意味するかを検証した. 肝細胞癌にて肝切除術が施行された症例(n=14)を対象として術中及び術後14病日まで経日的にHPLCを用いて胆汁中ビリルビン亜分画を測定した.術前のICG R15値によって肝予備能を良好群と不良群の2群に分け、肝切除術後の胆汁中ビリルビン亜分画組成の変化を比較検討すると、不良群では胆汁中ビリルビン亜分画組成のbilirubin diglucuronide(BDG)の割合が術後第1病日から第5病日まで良好群より低値を示した.さらにBDGの術後の最低値とICG R15値の間には有意な相関が認められた(r=0.732,n=14,p=0.0029). 以上から、肝切除術後の胆汁中ビリルビン亜分画は残肝の予備能力を反映している可能性が示され、肝予備能不良症例では術後早期に残肝のエネルギーが低下していることが示唆された.
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