研究概要 |
本研究課題の最終目的は早期膵癌で血清中に放出される腫瘍特異的蛋白を同定することである。外科材料から腫瘍組織とその周囲にある健常膵組織から得、そのmRNAを元にしてサブトラクション法により腫瘍特異的メッセージを同定、データバンクより細胞外放出蛋白を選別し、それが実際の患者血清中で上昇し腫瘍マーカーと成りうるかを決定し目的の蛋白を得る手順をとる予定であった。しかし、膵癌組織が比較的に入手しにくいこと、腫瘍細胞が膵組織間に浸潤し純度の高い膵癌組織を集めにくいこと、材料が変性し易く良質なmRNAを得にくいことなどから、部分別のmRNA精製が困難と推定された。そこで、膵癌細胞株と正常(膵)組織間でサブトラクション法を試みることにした。そのためには第一に臨床例を最大限反映しうるヒト膵癌細胞株の選別を行う必要があるため、臨床例の検討からはじめた。外科的に摘出されフォルマリン固定、パラフィン包埋された60例の膵癌、45例のファーター乳頭癌、70例の肝細胞癌、180例の胃癌、50例の食道癌、40例の大腸癌を用い、腫瘍の性状を各種免疫組織染色で比較検討し、膵癌に最も特徴的な表現型の抽出を試みた。免疫組織染色的マーカーとして、MIB-1,E2F-1,cyclin E,cyclin A,cyclin D1,p53,pRb,p16INK4A,βcateninなどを指標とした。これらの検討から、胃腺型胃癌、肝癌、食道癌とは異なり、高分化-中分化膵癌は腸型胃癌に最も類似した性格を有するものが多いと推定された。同様にして7種類のヒト膵癌株、9種類のヒト肝癌株、7種類のヒト胃癌株の免疫組織学的検討、遺伝子解析し臨床例との比較を開始した。これまでに得られた結果ではヒト膵癌株は臨床的には概ね低分化膵癌・進行癌に相当する。これらが当初の目的であった早期膵癌として利用しうるか更なる検討が必要である。
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