研究概要 |
我が国の大腸癌は増加傾向をたどり、悪性新生物の死亡率では第3位を占める結果となっており、近年の増加傾向と死亡率の高さから、大腸癌の増殖・転移を規定する因子の解明は急務となっている。最近の分子生物学の進歩により、癌は複数の遺伝子異常の蓄積による多段階発癌の過程をとる事が明らかになり、転移に関しても多くの段階から成り立っている事が解明されつつある。しかし、癌転移機構の詳細は把握されておらず、転移過程に関与する多様な因子のうち、どれが成立の鍵を握っているのかは明らかではない。そこで細胞増殖や血管新生に重要な役割を果たしている線維芽細胞増殖因子(FGF)に着目し、大腸癌におけるFGFとレセプターの発現を検討した。現在報告されている23種類のFGFのうち、大腸癌では全く研究されていないFGF-7(Keratinocyte Growth Factor, KGF)についてその発現と局在を検討した。更にKGFと50%以上のアミノ酸相同性を有し、同一のKGFレセプター(KGFR)に作用する事が知られているFGF-10(KGF-2)についても大腸癌組織、培養大腸癌において蛋白の発現、mRNAの発現・局在を研究した。 結果:大腸癌組織においてKGFは癌周囲の線維芽細胞、腸クロム親和性細胞、癌細胞自身にその発現と局在を認めた。KGF-2は線維芽細胞、癌細胞に、KGFRは癌細胞にのみ発現と局在を認めた。大腸癌において癌細胞、線維芽細胞などで産生されたKGF,KGF-2が癌細胞に局在するKGFRを介してautoorine,paraorine的に大腸癌増殖に関与している事を証明した。培養実験系ではrecombinant KGF,KGF-2を添加して大腸癌細胞の増殖を確認した。更にKGF-2アンチセンスオリゴを作製し、癌細胞リボゾームでのKGF-2mRNAの翻訳を阻害し、KGF-2蛋白の産生を抑制する事により培養大腸癌細胞の増殖抑制を確認した。KGF阻害薬も現在実用化されている血管新生阻害薬同様に、分子生物学的治療における癌治療新戦略の一つとして期待できる。
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