研究概要 |
癌の浸潤、転移において、細胞外マトリックスの分解は必須のプロセスであり、中心的役割を果たしているのはマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)であり、その酵素活性と癌細胞の浸潤、転移能との間に正の相関関係が見い出されている。そのMMP産生促進因子として同定されたのがExtracellular Matrix Metalloproteinase Inducer (EMMPRIN)であり、トリの血液脳関門(BBB)特異的抗原HT7のヒトhomologueである。 本研究において我々は、 EMMPRINはヒトグリオーマ組織で高発現し、その程度は組織学的悪性度と相関すること〔Int.J.Cancer:88,21-27(2000)〕、 in vitroではグリオーマ細胞は発現したEMMPRINを介して脳由来線維芽細胞からのMMP-2、 MT1-MMPの産生を刺激し、それは抗EMMPRINモノクローナル抗体によって阻害されることを示した[Cancer Letters 157(2000)177-184]。また、免疫組織化学的にEMMPRINの発現は、正常脳では血管内皮のみに限られ、 glioblastoma multiformeで増生した血管内皮では陰性であり、MRI上のGd-enhancementとの比較検討からもBBBとEMMPRIN発現との相関性も示された(投稿中)。 脳腫瘍におけるEMMPRIN発現の報告は、未だに無く、 paracrine的に働く因子の重要性を指摘することは、これからの治療戦略を考える上でも大切だと考える。具体的には、EMMPRINの非活性型アナログまたは活性部位ペプチドによるparacrine loopの遮断という治療への応用の可能性を現在検討しており(投稿準備中)、腫瘍浸潤におけるEMMPRINの果たす役割の検証は重要であると考えている。
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